インフルエンザ予防と歯磨き:口腔ケアでウイルス感染を防ぐ

~うがいよりも歯磨きが大事?歯周病菌とインフルエンザの意外な関係~

はじめに

毎年冬になると大規模な流行を繰り返すインフルエンザ。
子どもから高齢者まで幅広い世代で発症し、あっという間に拡散する強い感染力を持っています。

皆さんはどんな方法でインフルエンザの予防をしていますか?

  • 手洗い・うがい
  • マスクの着用
  • 予防接種

これらは一般的によく知られた予防法ですが、実はあまり知られていない効果的なインフルエンザの予防法があるんです。

それは「歯磨き」です。

この記事では、なぜ口腔ケアがインフルエンザ予防に効果的なのか、歯科医の視点から詳しく解説します。

お口が汚いとインフルエンザにかかりやすい?

「実はお口が汚いとインフルエンザにかかりやすいんですよ。うがいも大事ですけど、歯磨きがもっと大事なんです。」

うがいよりも歯磨きが大事?一体どういうことでしょうか。

キーワードはウイルスです。

インフルエンザ予防と口腔ケアの関係

細菌とウイルス:感染メカニズムの違い

一般的に風邪は細菌ウイルスのどちらかが原因で発症します。
大きさもずいぶん違いますが、もっと違うのが感染のメカニズムです。

細菌感染の場合

粘膜に付着するだけで炎症を起こし、喉が痛くなったり熱が出たりします。

ウイルス感染の場合

粘膜に付着しただけでは発症しません。細胞の中へ入り込むことで発症するんです。

そしてその時に重要な役目をしているのが酵素です。

インフルエンザウイルスの感染メカニズム

インフルエンザウイルスの表面には、鍵とハサミのような働きをする2種類の酵素があります。

1

ウイルスが粘膜に付着

インフルエンザウイルスが喉などの粘膜にくっつきます。

2

「鍵」の酵素が細胞膜を開く

一方の酵素が鍵を差し込んで細胞膜をこじ開け、ウイルスが細胞内に入ります。

3

細胞内で増殖

細胞の中で仲間を増やし、大増殖します。

4

「ハサミ」の酵素で感染拡大

もう一つのハサミを持った酵素が、隣の細胞へたくさんのウイルスを放出。こうして感染が拡大していきます。

そしてなんと、この酵素を活発にする細菌があるんです。

歯周病菌がインフルエンザ感染を助長する

特に気をつけなければいけないのが歯周病菌です。

細菌の中でも最強なのが、口腔細菌界の魔王「歯周病菌」

歯周病菌がウイルスの酵素を活発化させるため、ウイルスが喉の細胞の中に入りやすくなり、インフルエンザにかかってしまうのです。

歯周病菌があるとどうなる?

比較項目インフルエンザ単独歯周病菌が加わった場合
感染スピード通常の速度で感染拡大感染拡大が加速
ウイルスの酵素活性通常レベル活発化
細胞への侵入通常の侵入率侵入しやすくなる
感染の広がり限定的時間経過とともに大きく広がる

研究でも、歯周病菌が加わった場合の感染は、時間の経過とともに広がりが大きくなっていくことが確認されています。

なぜ歯磨きでしか歯周病菌を除去できないのか

厄介なことに、プラーク(歯垢)に住みつく歯周病菌は、以下の方法では除去できません。

  • 抗生物質などの薬で撃退することができない
  • 人間の体の免疫細胞でもやっつけることができない

だから、歯周病菌はプラークごと歯磨きで除去するしかないのです。

これが「うがいよりも歯磨きが大事」と言われる理由です。うがいでは口の中の細菌を十分に除去することができませんが、歯磨きならプラークごと歯周病菌を取り除くことができます。

口腔ケアでインフルエンザ発症率が減少

口腔ケアとインフルエンザ予防の関係を示す興味深いデータがあります。

介護施設での研究結果

介護施設で歯科衛生士から口腔健康管理を受けていた場合、インフルエンザの発症率が大幅に減少していたことが報告されています。

特に寝たきりの高齢者の方は、インフルエンザの合併症である肺炎を防ぐためにも、お口の中を清潔に保つことが重要です。

高齢者は口腔ケアが不十分になりがちで、歯周病菌が増殖しやすい環境になっています。そのため、専門家による口腔健康管理がインフルエンザ予防に大きな効果を発揮するのです。

インフルエンザを予防するための口腔ケア

日頃からお口の中をきれいにしていくことが一番大事です。
そのためには以下のケアを心がけましょう。

セルフケア(ご自宅でのケア)

  • しっかりとした歯磨き:毎食後、特に就寝前の歯磨きは丁寧に行いましょう。歯と歯ぐきの境目を意識して磨くことが大切です。
  • 歯間ブラシ・デンタルフロスの使用:歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間のプラークも除去しましょう。
  • 殺菌作用のある洗口液:歯磨き後に使用することで、さらに効果的です。

プロフェッショナルケア(歯科医院でのケア)

  • かかりつけの歯医者さんに定期的に通う:磨き残しを取ってもらい、正しい歯磨き指導を受けることが重要です。
  • プロフェッショナルクリーニング(PMTC):歯科衛生士による専門的な歯のクリーニングで、歯ブラシでは落としきれない汚れを除去します。
  • 歯周病のチェック・治療:歯周病がある場合は早期に治療することで、インフルエンザのリスクを下げられます。

インフルエンザ予防のための総合対策

口腔ケアに加えて、以下の予防対策も併せて行うことで、より効果的にインフルエンザを予防できます。

  1. 手洗い:外出後、食事前は石けんでしっかり手を洗いましょう。
  2. うがい:外出後はうがいをして、喉の粘膜を保護しましょう。
  3. マスクの着用:人混みではマスクを着用し、飛沫感染を防ぎましょう。
  4. 十分な睡眠:免疫力を高めるために、質の良い睡眠を心がけましょう。
  5. バランスの良い食事:栄養バランスの取れた食事で体の抵抗力を高めましょう。
  6. 適度な湿度の維持:室内の湿度を50〜60%に保ち、粘膜の乾燥を防ぎましょう。
  7. 歯磨き・口腔ケア:歯周病菌を除去し、ウイルス感染のリスクを下げましょう。

よくあるご質問

インフルエンザ予防と口腔ケアについて、患者様からよくいただくご質問とその回答をご紹介します

Q

なぜ歯磨きがインフルエンザ予防に効果的なのですか?

A

歯周病菌がインフルエンザウイルスの酵素を活発化させ、ウイルスが細胞に侵入しやすくなることがわかっています。歯磨きで歯周病菌を除去することで、この感染リスクを下げることができます。

Q

うがいだけではダメなのですか?

A

うがいは喉の粘膜を保護する効果がありますが、プラーク(歯垢)に住みつく歯周病菌を除去することはできません。歯周病菌はプラークごと歯磨きで物理的に除去する必要があります。

Q

1日何回歯磨きをすればいいですか?

A

毎食後の歯磨きが理想的ですが、特に就寝前の歯磨きが重要です。寝ている間は唾液の分泌が減少し、細菌が増殖しやすくなるためです。

Q

歯周病があるとインフルエンザにかかりやすいですか?

A

はい、歯周病があると口腔内の歯周病菌が多くなり、インフルエンザウイルスの感染リスクが高まります。歯周病の治療と予防が、インフルエンザ予防にもつながります。

Q

高齢者は特に気をつけた方がいいですか?

A

はい、高齢者は口腔ケアが不十分になりやすく、また免疫力も低下しているため、特に注意が必要です。定期的な歯科受診と口腔ケアがインフルエンザや肺炎の予防に効果的です。

まとめ:歯磨きでインフルエンザを予防しましょう

インフルエンザ予防というと、手洗い・うがい・マスクが一般的に知られていますが、実は歯磨きによる口腔ケアも非常に効果的な予防法です。

歯周病菌はインフルエンザウイルスの酵素を活発化させ、ウイルスが細胞に侵入しやすくなることがわかっています。そして、この歯周病菌は薬や免疫細胞では除去できず、プラークごと歯磨きで物理的に除去するしかないのです。

介護施設での研究でも、口腔健康管理を受けていた人はインフルエンザの発症率が大幅に減少していたことが報告されています。

日頃からお口の中をきれいにしていくことが一番大事です。そのためには、しっかりとした歯磨きと、かかりつけの歯医者さんでの定期的なケアを心がけましょう。

歯磨きの方法や歯周病について疑問や心配なことがあったら、まずはかかりつけの歯医者さんに相談しましょう。

萩野 貴俊 副院長

この記事の監修者

ハギノ歯科 副院長
萩野 貴俊

愛知学院大学歯学部卒業。日本歯周病学会会員。 歯周病治療と予防歯科のスペシャリストとして、患者様の口腔健康をサポートしています。 口腔ケアは全身の健康にもつながります。お気軽にご相談ください。

参考情報

この記事は、日本歯科医師会の「日歯8020テレビ」の内容を参考に作成しています。

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